大「脳」洋航海記 » Blog Archive » ミスリードされる「脳から見た男女差」:現代の神経科学はそこまで男女差を明確に示せるわけではない(追記あり)

科学者の常として、「男女差はあるのか?」という問いに対して「ない」と断言することはできません。ただ、それが非常に微妙なものであることは以前のエントリでもreviewした通りです。また、あまりにも微妙な差であるがゆえにその研究の進捗も遅々たるものでしかありません。例えば、僕のようなヒト認知神経科学&脳機能画像を専門とする研究者が日常的に目を通すような主要ジャーナルに限っていえば、男女差を扱った研究はPubMedに引っかかる範囲でも120件しかないのです。それらの論文の内容とて、大半は番組内で報じられたような「進化を背景とした男女の情報処理プロセスの違い」とやらなどではなく、もっと基礎的な神経科学的な知見を扱っているものに過ぎません。テーマを”visual perception”に変えると2279件に達することからも、その発展途上ぶりがうかがえます(ちなみにPubMed自体は1800万件を超える学術論文のデータベースです)。

にもかかわらず、それを「性差は既に(脳)科学的に明らかにされている」と断定的に報じた上で、全米の公立学校とやらの例を大々的に紹介する番組というのは一体何なんでしょうか? そもそも、全米に広まっているといっても、番組曰くではまだ「500校」(どう見ても全米に公立学校はもっとあるでしょう)。そのような恣意的な内容の番組が報じられる背景には、科学的な真実を踏まえたルポルタージュというよりももっと別の何か意図があるようにしか思われません。

僕はヒトには性差はないと断言するつもりはありません。同じように、性差が「ある」とも断言するつもりはありません。それよりも大事なことは、科学的な検証がなされるのを待つという姿勢であるはずです。しかしながら、この番組はそれを捻じ曲げてミスリードしようとしているように見えます。そのようなメディアの動きは我々現場の研究者には受け入れがたいものです。



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